大垣市のドローン落下事故の検討

先日にも記載した、2017年11月に発生した大垣市のドローン落下事故は、国交省によると操縦者本人や、関係者ではない第三者が負傷した最初のケースとのことです。この事故を受けて、許可、承認申請の審査要領も変更されるなど、ドローンの法律やリスクを検討する上で重要なケースだと思います。法的にもう少し掘り下げてみたいと思います。

1. 事実関係

国交省発表資料(平成29年度事故トラブル一覧表や厳重注意に関する大坂航空局の発表)によれば、事実関係は以下のとおりです。

●2017年11月4日

大垣観光協会主催のイベントの一環で、飛行中のドローンから菓子を撒く催し(「本催し」)が行われたが、飛行中のドローンがバランスを崩して墜落し、観客を負傷させ、6名が救急搬送され、3名が軽傷を負った(「本件事故」)。ドローンはマルチコプターで、プロペラを除く直径約70cm、最大離陸重量約2.6kgの自作機で、高さ10mから落下。日経新聞によれば、事故の原因はプロペラ部分の不具合で、点検を怠り、不具合を見逃したとのこと

ドローンを飛行させていたのは、空撮関連事業を営んでいた合同会社(「A」)。同日、大坂航空局は、Aに対し、安全対策の実施状況、事故に至った経過・原因等についての詳細報告を指示

確認の結果、以下の事実が判明

(1) 2017年11月4日の事故

・Aは、2017年10月17日に、本催しのために、機体を特定した上で申請の上、許可及び承認を取得。Y(Aの代表者)の操縦経験は260時間以上。(a)許可の対象は人口集中地区上空の飛行、(b)承認の対象は(i)第三者又は第三者の物件との間の距離が30m未満の飛行、(ii)催し場所上空の飛行、(iii)物件投下を伴う飛行であった。しかし、Aは、許可・承認を得た機体とは別の機体を飛行させ、事故に至った(事実①)

・風速や積載重量の計測を適切に行わないまま飛行し、事故に至った(事実②)

(2) 2016年8月15日の飛行

・Aは、本件事故よりも前の2016年8月15日に、夜間飛行の許可なく日没後の飛行を行った(事実③)

・第三者の立入りを禁止していた飛行エリア内に観客が入ってきたことを認識しながら飛行を継続させた(事実④)

●2017年12月6日: 大阪航空局が、Aに対し、厳重注意の上、再発防止策の文書報告を指示。

●2018年9月1日:   岐阜県警が、9月5日にY個人を書類送検する方針を固める(日経記事)。

2. 検討

日経記事によれば、本日現在では、まだ書類送検はされていないようですが、送検・起訴に至る場合、刑事責任の内容が問題になります。

まず、業務上の注意を怠って本件事故に至っており、刑法上の業務上過失致傷罪(刑法211条)が成立すると思います。5年以下の懲役若しくは禁固又は100万円の罰金刑の対象です。

次に、事実①に関してです。上記のとおり、Aは、飛行に先立ち、(a)人口集中地区に関する許可、(b)(i)30m未満・(ii)催し場所上空・(iii)物件投下に関する承認を申請し、許可・承認を取得していました。(a)の許可は航空法132条2号、(b)の承認は、(i)は航空法132条の2第3号、(ii)は同第4号、(iii)第6号にそれぞれ基づくものです。しかし、許可・承認は、その申請書において各機体を特定することを要し、機体毎に申請することとされています。許可・承認の対象が別の機体と判定される場合には、許可・承認なく飛行していたことになり、航空法132条及び132条の2違反ということになります。

事実③に関しては、夜間飛行をする場合には、航空法132条の2第4号の承認が必要ですが、これを取得せず飛行していたことから、航空法132条の2違反になると思います。

事実②及び④に関して、許可・承認書には、通常、「申請書に記載のあった飛行の方法、条件等及び申請書に添付されていた飛行マニュアルを遵守して飛行させること。また、飛行の際の周囲の状況、天候等に応じて、必要な安全対策を講じ、飛行の安全に万全を期すこと」といった条件が付されています。事実②や④はこのような条件に反しているように思います。この点に基づき航空法132条及び132条の2違反とされる可能性もあると思いますが、どのような形になるのか、注目されるところです。

航空法132条や132条の2違反は、いずれも50万円以下の罰金とされています(航空法157条の4)。また、行為者を処罰する他、法人に対しても50万円以下の罰金刑を科す旨の両罰規定があり(航空法159条)、起訴の内容次第ですが、Y個人とAの両方に罰金刑が科せられる可能性もあるように思います。

 

 

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