規制改革推進会議による農業用ドローンの普及拡大に向けた意見書(2018.11.8)

農業用ドローンについては、航空法や農薬取締法に関して、直近の投稿にも書きましたが、その続報です。

内閣府の規制改革推進会議の農林ワーキンググループは、2018年11月8日に、「農業用ドローンの普及拡大に向けた意見」という意見書を作成し、HPで発表しています。

元々既得権が強く、なかなか改革が進まなかった分野でしたが、農業の高齢化・人手不足といった問題が深刻に受け止められているためか、踏み込んだ規制改革の内容になっていると思います。今後、この内容に沿って法改正が行われ、使い勝手の良い農業用ドローンの普及が進むと期待されます。農業の新しいシーンが楽しみになります。

内容は、航空法関連、農薬取締法関連、電波法関連です。以下は、意見書の主要部分の抜粋です。ポイント部分に青字でマークしました。

**(抜粋はじめ)**

1.農薬の空中散布における最新型ドローンに係る規制の見直し

(1)航空法に基づく規制

【現行制度】
・平成27年の航空法改正後、無人ヘリコプターであっても最新型ドローンであっても、航空法上の無人航空機の安全規制は、国土交通省に一元化されている
・農薬の散布についての無人航空機の航行の安全規制に関しては、国土交通省の「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(以下「審査要領」という。)」に規定している。農業分野については、この審査要領に加え、国土交通省航空局長・農林水産省消費・安全局長通知「空中散布等を目的とした無人航空機の飛行に関する許可・承認の取扱いについて」及び農林水産省消費・安全局長通知「空中散布における無人航空機利用技術指導指針」(以下、「技術指導指針」という。)に基づく制度が存在する
・技術指導指針により、一般社団法人「農林水産航空協会」(以下「農水協」という。)が航空法上の代行申請を行うことのできる登録認定等機関として認められ、併せてオペレーターや機体の認定事業も実施している

【問題点】
技術指導指針は、航空法と農薬取締法に基づき策定されていると思われるが、具体的な法的根拠は明確ではなく、特に航空法上の義務を課したものではないにもかかわらず、農業の現場では、農水協によるオペレーターや機体の認定が義務であるとの誤解や、農水協が航空法に基づく許認可権限を有しているとの誤解が存在する
最新型ドローンの自動操縦機能、カメラ機能などは、ドローンの航法精度を上げ、安全性を確保するのに有効な手段であり、国土交通省も審査要領で安全確保策として認めている。それにもかかわらず、農水協はこれら機能を備えた最新型ドローンの代行申請は受け付けていない
・ドローン利用の際は、国土交通省に対する報告に代え、技術指導指針に基づく都道府県・地区別協議会への事前の事業計画書と事後の事業報告書の提出が求められている。これが農業従事者への負担となり、農業用ドローンの導入を阻害している

【実施すべき事項】
最新型ドローンについて、現在の技術指導指針を廃止するとともに、農水協が直接行う機体認定、オペレーター認定については、農水協の自主事業であり取得の義務はない旨、農林水産省より自治体等関係者への周知を徹底する
②従来からの無人ヘリコプターについては、現場の混乱がないよう十分な配慮を行いながら、当面、次の措置を講じる
– 航空安全に係る事項は、国土交通省の「審査要領」、又は国土交通省と農林水産省の共管による通達により規制する
– 農薬安全に係る事項は、農林水産省が新たなガイドラインを策定する
– 都道府県・地区別協議会等への報告は、必要最小限に限定し、オンライン報告を可能とする
③国土交通省の審査要領は、自動操縦、手動操縦に関わらず、一律に10時間の飛行経歴要件を課している。しかし、自動操縦の農業用ドローンについては、機種ごとの機能・性能に応じてルート設定などの基本操作の他、不具合対処など必要事項についての講習を受けた実績がある場合には、この飛行経歴要件を不要とする
④農林水産省は、審査要領に基づく代行申請制度を通して最新型の農業用ドローン活用が拡大するよう、ディーラーやメーカー等に対し、顧客の代行申請を行うよう促す。これによって、自動操縦機能やカメラ等を搭載した機体の申請実績を作る

(2)農薬取締法に基づく規制

【現行制度と問題点】
陸上散布で認められている低い希釈倍数では、ドローン散布の際は散布液量が多くなり過ぎ、ドローンを活用できない。そのため、ドローンで活用できる農薬は、約500種類にとどまる。品目ごとに見れば選択肢はさらに少なくなり、例えば「かんきつ」については、わずか2種類にとどまる
農薬取締法により、農薬メーカーには農薬の希釈倍数などについて登録・表示する義務が課されており、農薬使用者には、希釈倍数、使用時期などの基準を遵守する義務が課されている
・陸上散布において認められている農薬のドローン散布に当たっては、希釈倍数要件の緩和が不可欠である。このような農薬の希釈倍数の変更にも、あらためて農薬メーカーの登録・表示が必要とされ、そのために独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)による検査が必要となる
この検査においては農薬残留データを一から取り直すことが求められるため、数千万円のコストがかかり、ドローンで利用可能な農薬の種類の拡大を阻んでいる

【実施すべき事項】
①農薬取締法上、いかなる散布機器を用いるかは、農薬を使用する者が遵守すべき基準に含まれていない。農林水産省は「散布」、「雑草茎葉散布」、「湛水散布」、「全面土壌散布」等の使用態様においてドローンを使うか否かは、農薬使用者の自律的な判断に任せる旨、解釈を明確化し、関係者に通知する
既存の(地上)散布用農薬について希釈倍数の見直しを行う変更登録申請の場合、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の検査において作物残留試験を不要とし、薬効・薬害に関する試験のみとすることにより、検査コストの大幅な削減を図る

(3)電波法に基づく規制

【現行制度と問題点】
・ドローンの航行の安全を確保する上で、リアルタイム通信による位置情報の収集や、カメラによる視野確認が有効である。また、ピンポイントで肥料や農薬を散布するためにもカメラによる視野確認が必要となる。このような通信には、低出力のWi-Fiなどでは不安定であり、携帯電話の電波利用が不可欠である
・しかし、電波法上、陸上移動局は、「陸上を移動中又はその特定しない地点に停止中運用する無線局」と定義されており、ドローンは陸上移動局として認められていない
・ドローンで利用される携帯電話端末の数を、総務省と携帯電話事業者が把握できるよう実用化試験局制度が導入されているが、毎回、携帯電話事業者経由で総務大臣の許可を取得することが必要であり、導入の拡大を阻害している

【実施すべき事項】
総務省は、電波法上、低空を飛行するドローンについては、地上での携帯電話利用と同じく陸上移動局として携帯電波を利用可能とする場合の要件について技術的に検証し、明確化する
総務省は、本年度中に必要な実証試験を行い、検証内容に基づきドローンの携帯電波利用を拡大した必要な制度改正を行うとともに、制度開始までの間についても、実用化試験局による免許申請制度の簡略化など、より簡易にLTE通信や5Gなどの携帯電話用の電波帯を使用できる仕組みを構築する

2.農業用の最新型ドローンの普及に向けた取組

ドローン分野のイノベーションを農業分野に取り込むことはきわめて重要であり、そのための国の役割は大きい。データに基づいたスマート農業を促進するには、マルチローター型を中心とした航行の安定性の高いドローン導入を強力かつ集中的に促進する必要があり、以下に述べる改革を行うべきである

(1)次の要素を含む「総合的な農業用ドローン導入計画(仮称)」を農林水産省が中心となって策定する
– 最新型ドローン導入の目標値
– 導入促進のための地方説明会の開催回数の目標値
– 実質的に「ドローン用農薬」と位置付けられる農薬品目数の目標値
– 農業用ドローンの普及拡大に向けた規制点検や先端技術に関する情報共有の枠組み

(2)農林水産省は、民間事業者のニーズをくみ取りながら農業用ドローンの普及を拡大するために、経済産業省の協力も得て官民協議会を立ち上げる。最新型ドローンについては技術指導指針に基づく都道府県・地区別協議会は廃止し、ドローン推進のための地域組織が必要な場合、官民協議会の下に新組織を立ち上げる

**(抜粋おわり)**

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